不動産投資で失敗する人のよく耳する例としてこんなものがあります。
- 表面利回り「のみ」を見て収益性を判断したために思ったほどの利益が出ない
- 多額のローンを組んだことで毎月の現金の持ち出しが重くなる
- 空室が発生し、思ったより空室期間が長引くことで期中のインカム収入がマイナスとなる
その結果、安値で手放さざるを得なくなって失敗して終わる。
では、この例から学ぶことは何でしょう。
不動産投資で失敗する人の共通点は、投資を始める前に入念な計画・準備を行なわなかったということに集約されます。多くの失敗は賃料の低下を想定した収益性を把握し、賃料の低下を想定した資金計画を立て、空室のリスクを想定することで防ぐことができます。信頼できる不動産業者は、このようなリスクを織り込んだうえで不動産購入をおすすめします。
今回は、このうち「賃料の低下を想定した収益性」について、IRR(全期間利回り)という考え方をご紹介します。
不動産投資のIRR(全期間利回り)と表面利回り
IRR(Internal Rate of Return)は個人の不動産投資ではそれほど一般的ではありませんが、投資を考える際には必要不可欠な考え方です。名前は難しそうですが、順を追って見ていけば合理的な考え方だとご納得いただけるでしょう。なお、IRRは一般的には「内部収益率」と言いますが、ここでは考え方を分かりやすく表すために「全期間利回り」という言葉を使います。
まず不動産投資でなぜ全期間利回りが必要なのかを説明する前に、表面利回りだけでは何が足りないのかを確認しましょう。
表面利回りで分かるのは、いまの賃料といまの物件価格の関係だけです。2,000万円の物件で、年間120万円(月10万円)の収入がある物件なら、利回りは6%です。 ところが、不動産投資は長期にわたります。10年後にいまと同じ賃料が取れるとは限りません。賃料は低下すると考えるのが自然でしょう。表面利回りでは、将来の賃料にもとづく収益性は把握できません。そこが最大の欠点なのです。
全期間利回りで将来賃料にもとづく収益性を把握
表面利回りでは、将来の賃料にもとづく収益性は把握できません。しかし全期間利回りなら、将来の賃料と売却価格にもとづくトータルの収益性を把握できます。将来の予測なので確定的な利回りではありませんが、合理的な手法で将来の賃料や売却価格を予測することで、こんなはずではなかった・・・といった失敗を避けることができるでしょう。
全期間利回りを具体例で見ていきましょう。なお、簡略化のため各種の費用、手数料、税金等は考慮しないことにします。 年間120万円の収入がある2,000万円の物件。「表面利回り6%」と表示されている物件です。
ケース1:賃料が下がらず、購入と同じ価格で売れた場合
初年の収入120万円。2年目も120万円、3年目も120万円。3年の投資期間が終わったとき、当初価格と同じ2000万円で売却。
この式で求まるrが全期間利回りです。
算出には反復計算の手法(エクセルではソルバーやIRR関数)を使うことになります。計算にはひと手間かかるのですが、考え方としては、上記の方程式、「投資時の価格」と、「将来の収入と売却価格」を均衡させる利回りが全期間利回りです。
このときの全期間利回りは6%です。将来の収入が変わらず、将来の売却価格が購入価格と同じ場合、全期間利回りは表面利回りと同じになります。
ケース2:賃料が下がって、購入よりも低い価格で売れた場合
初年の収入120万円。2年目は115万円、3年目は110万円。3年の投資期間が終わったとき、当初価格より低い1980万円で売却。
この想定は、年が経つと収入が減ることと、売却価格が低くなる可能性を考慮したものです。同じように計算してみます。
そうすると、答えは5.4%になります。
将来の賃料減価や物件価格の低下を見込むことで、表面利回り6%の物件は、全期間利回りでは5.4%となります。 より長期の投資では賃料が低下する影響も大きくなります。売却価格が低くなるケースもあるでしょう。そういうシナリオを想定して全期間にわたる投資の採算性を把握するのが、全期間利回りなのです。
なぜ、全期間利回りが使われないのか
全期間にわたる投資の採算性を把握できるメリットがありながらも、全期間利回りは不動産投資の分野ではほとんど使われていません。不動産投資ファンドのような機関投資家が、独自の分析にもとづく投資判断の一つとして用いることはあっても、個人投資家向けに全期間利回りが提供されることはまずありませんでした。 その理由は、将来の賃料と物件価格の予測が難しいからです。
ところが、近年では状況が変わりつつあります。不動産ビッグデータや不動産テックという言葉が浸透しつつあるように、不動産の分野でも大量なデータにもとづいて分析を行い、その分析結果を用いて投資判断を行うという方向に向かっています。 大量な不動産データを分析するテクノロジーとして、人工知能(AI)、機械学習、ディープラーニング(深層学習)といった言葉を目にすることも増えています。不動産情報を取り入れ、分析し、投資家にとって意味のある情報を引き出し、提供する。 それができるのが不動産テック企業であり、今後の不動産業と言えるでしょう。
参考記事:フィンテック、不動産テックの未来は?
全期間利回り、投資家にとってのメリット
全期間利回りという考え方は、投資家にとってメリットが大いにあります。
古くは、天気予報と言えば地上から雲を眺め、明日の天気を占うことでした。しかし、いまの気象予測は、はるか上空からの人工衛星で地球を俯瞰的に観測し、地上からではわからない動きやリスクを見つけ出し、スーパーコンピューターで分析して、長期で広範囲な予測を可能にしています。 地上から見える範囲の空を見て、明日の天気を予測するのが表面利回りだとすると、気象衛星からの情報を分析して、より網羅的で長期的な予測をするのが全期間利回りとたとえることもできます。
みんなが見ている表面利回り「だけ」ではなく、将来の予測にもとづく「全期間利回り」という考え方を取り入れることで、こんなはずではなかった・・・という失敗を極力避けることができるでしょう。
全期間利回りという考え方が気になる方は、以下のセミナーからどうぞ。