米国の利上げと中国の景気減速は、日本の不動産投資にどのような影響を与えるか

米国の利上げと中国の景気減速は、日本の不動産投資にどのような影響を与えるか

不動産
(写真=PIXTA)

 グローバル経済のリスクとしてもっとも懸念されているのが、「米国の利上げ」と「中国の景気減速」です。これらのもたらすグローバル経済への影響は甚大なものになると言われていますが、日本の不動産市場へはどのような影響をもたらすのでしょうか。

日本国内の不動産市場へのリスク

 不動産投資は他の投資に比べて手間がかかりますが、安定的に収益を得られる投資だと言われています。しかし不動産投資で安定的に稼ぐには、不動産投資がどのようなリスクを抱えているのか、どのリスクにどのように対応したらいいのか、不動産市場に影響する経済の動きにはどのようなものがあるのか、リアルタイムで把握しておく必要があります。

 不動産投資がもつリスクはたくさんありますが、市場から直接的に影響を受けるものには、主に「空室リスク」「家賃下落リスク」「金利上昇リスク」「流動性リスク」があります。物件の特性にもよりますが、不動産価格の上昇や、不動産需要の減少などに影響を受けて、空室リスクが上昇します。家賃下落リスクも同じく、不動産市場から強く影響を受けて、上昇・下落します。しかしこれらの「空室リスク」「家賃下落リスク」は、オーナーの工夫次第で改善できる点もあり、市場に完全に連動して増減するわけではありません。

 一方で、市場の動向をよりダイレクトに受けるのが「金利上昇リスク」です。不動産投資を行なう場合、全てキャッシュで投資するオーナーは非常に少ないでしょう。多かれ少なかれ金融機関で15年、20年といった長期のローンを組みます。不動産投資を行なう場合、固定金利でローンを組む可能性はほぼありません。変動金利でローンを組んだ場合、金利が上昇すれば返済額が増大し、不動産投資の収支が悪化します。自己資金ゼロ・全額ローンで投資していた場合や、金利上昇リスクを資金計画に充分に組み入れていなかった場合、急激な金利の上昇によって、一気に赤字に転落することも考えられます。「空室リスク」や「家賃下落リスク」と異なり、「金利上昇リスク」は投資家個人で改善できるものではないため、もし上昇した場合にはどのように対応するか、事前に計画に組み込んでおく必要があります。

 「流動性リスク」も不動産投資に固有のリスクです。株、債券やその他金融商品ならば、いつでも市場で売買することができます。しかし不動産の場合は、収支が悪化したからといって、すぐに売って現金化することはできません。売ることを検討し始めてから準備し、実際に売れるまで最低数ヶ月はかかるでしょう。市場の影響を認識してから実際に売れるまで数ヶ月のタイムラグが発生するため、流動性が低いのです。投資家はこのタイムラグまで含めて検討し、取引しなければなりません。

 「流動性リスク」に影響するのは、不動産市場の需要の大きさです。需要が少なければ不動産価格が下落しますし、売りたくても買い手がつかないこともあるからです。不動産投資において、金利上昇と需要の大きさは、投資家がもっとも敏感にならなければならない問題なのです。

 現在の日本国内の不動産市場を見ると、まず「金利上昇リスク」については心配する必要が少ないでしょう。日銀は長期的な金融緩和を行なっており、金利は最低の水準を上下しています。日銀の金融緩和には「消費者物価の前年比上昇率2%」という目標があります。2014年の消費者物価指数は前年比2.7%の上昇と発表されましたが、これから増税の影響とされる2%を差し引くと、実質的には0.7%の上昇に留まっています。消費者物価指数が前年比で2%上昇するのは、まだまだ先になるでしょう。そのため、金融緩和が終了し、緊縮に入って金利が上昇するという懸念は現時点ではありません。

 しかしアベノミクスの影響で、日本の景気が上向いてきているのは事実です。不動産市場も上昇傾向にあり、世界的に魅力的な市場と見られています。5年後には東京五輪も控えており、不動産市場の需要面では不安要素は少ないと言えます。このように日本の国内においては、金利上昇、需要減少のリスクに不安要素は少ないのです。

グローバル経済の潜在的なリスク

 日本国内の不動産市場には大きなリスクがないと説明しましたが、グローバル不動産投資を行なう投資家は、グローバル経済のリスクを把握しておかなければなりません。グローバル経済の抱えるリスクとして、主なものは「米国の利上げ」と「中国の景気減速」の2つです。

米国の利上げ

 2015年6月、米国連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長は、年内の利上げを示唆する見解を発表しました。利上げの時期については、発表されるごとに遅くなっていますが、いずれ近いうちに実施されるのは確実でしょう。

 米国が利上げすると、「株価の下落」「円安・ドル高」「米国債券価格下落」「新興国株式・債券下落」など、グローバル経済への影響が考えられます。これらは世界の金融市場と実体経済にマイナス要因として働く可能性もあります。また、利上げは不動産市場への大きなマイナス要因となります。

 現在の米国の長期金利は13週国債で0.05%程度、5年国債で1.5%程度です。日本よりは高いですが、この低金利がローンを組みやすくし、不動産市場の活況へつながっているのです。

 とは言っても、米国は現在の景気の上昇局面に水を差すことを恐れているため、急激に金利を上昇させるような金融緩和の縮小は行なわないでしょう。FRBは慎重に実体経済の回復を見ながら、縮小へと移行していくはずです。事実、2014年に金融緩和の縮小が発表されてから、利上げの時期はどんどん遅らされてきています。これはFRBがそれだけ金融政策に慎重になっている姿勢の表れです。米国の利上げがグローバル経済に大きな影響を与えるのは間違いありませんが、利上げは徐々に行なわれると考えられます。投資家も慎重に対応していくべきでしょう。

中国の景気減速

 グローバル不動産市場に影響する要因として、中国の景気減速も考えられます。中国は今や米国に次いで世界第2位の市場規模を誇ります。特に中国は、不動産市場への投資を柱に高度成長を遂げてきたため、中国の景気減速がグローバル不動産市場の大きな不安要素となり得ます。

 中国は2000年代に入ってから2011年まで、毎年8%以上の成長率を保ち、1991年以降成長率が7.5%を下回ることはありませんでした。しかし2012年以降は7%台を推移するようになり、2014年にはとうとう7.5%を下回りました。2015年は、4月時点で7%を下回り、6.76%という推計が出ています。

 この景気の減速に対して、中国経済の成長が頭打ちになった、無理な公共投資による経済成長の牽引が裏目に出たと言われます。しかし中国の習近平国家主席は、「中国は成長が頭打ちになったのではなく、中国経済が成熟してきたために成長率が低く安定してきたのだ」と主張しています。いずれにしろ、中国経済が過去のようなペースで急成長することは今後考えられず、不動産需要もこれまでほど大きなものは見込めないと思われます。また中国は、不動産市場への莫大な投資によって、国家主導で経済成長を底上げしてきた面があります。そのため、経済成長の減速が中国不動産市場にとって大きな不安要素となる可能性があるでしょう。

グローバル経済のリスクは日本の不動産市場にどの程度影響するか

 グローバル経済のリスクとして、米国の金利上昇リスクと中国の景気減速リスクについて取り上げましたが、これらは日本の不動産市場にどの程度影響するのでしょうか。結果から言うと、日本発のリスクではないため、日本の不動産市場のマイナス要因として不安視するほどの影響はでないと考えられます。

 米国の利上げも中国の景気減速も、グローバル経済全体を冷え込ませる要因にはなりますが、日本の不動産市場へ直接的な影響は限定的と予想されます。

 グローバル経済の動向に目を光らせておくのは、投資家として当然のことです。しかし日本国内を対象とした不動産投資家は、米国の利上げや中国の景気減速というグローバル経済のリスクに関して、過度に心配する必要はないでしょう。それより、国内の経済動向に配慮した投資計画を立て、実践していくことを優先すべきでしょう。

 

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