高齢化の進む日本では、いろいろな種類のシニア向け住宅が提供されています。それらは制度上、費用面、サービス内容で異なるものを提供しています。また、世界に目を向けるとさらに日本とは異なった老人ホーム事情があることが分かります。日本と世界のシニア向け住宅の違いを見てみましょう。
日本のシニア向け老人ホーム事情
1.3つの分類
高齢化社会の進展は今後止まることなく続きます。さらに財政健全化政策によって、今後日本の社会保障制度は縮小していくことも確実になってきました。そこで、誰にとっても、老後の生活をどのようにプランニングしていくのかを考えて準備していくことは、非常に重要になっています。
日本のシニア向け老人ホームとして一般的なものは「特別養護老人ホーム」「有料老人ホーム」「サービス付き高齢者向け住宅」などがあります。これらは制度上大きな違いがあります。
制度上分類すると、大きく「公的な施設」と「私的な施設」とがあります。公的な施設には「介護保険3施設」があります。私的な施設は「民間運営施設」と呼ばれます。さらにそれぞれにいろいろな種類があるのですが、特別養護老人ホームは介護保険3施設に、有料老人ホームとサービス付き高齢者向け住宅は民間運営施設に分類されます。
2.制度上の違い
(1) 特別養護老人ホーム
特別養護老人ホームは、入浴や食事、排泄などの日常生活を1人で行うことが困難で、常に介護が必要な状態になっている方が入居する施設です。介護保険制度上は「介護老人福祉施設」となり、事業主体は社会福祉法人のみになっています。制度の上では2015年の介護保険制度の改正により要介護状態3以上の方が入居できることになっていますが、実際は施設数や介護士の数が足りていないため、状態の重い要介護状態4以上の方がほとんどです。
提供される介護サービスの内容は、入居者の健康・衛生管理がメインで、レクレーションなども行われることが多いです。ただし医療サービスは基本的に提供されません。費用は介護保険で大部分がカバーされるため、有料サービス施設よりもずっとお得ではありますが、入居する条件が厳しく、1つの施設で数百人待ちとなっているケースもあります。また現在は多床室が一般的ですので、プライバシーを守った生活は難しいかもしれません。今後は個室が主流になっていくとも言われていますが、個室になるとそれだけ自己負担額も上がりますので、メリット・デメリット共にあります。
費用面では入居時の一時金は必要ありません。また介護サービス費は国・自治体が負担しますので、これもほとんどかかりません。自己負担しなければならないのは、サービス費の一部と、賃料、食費、その他生活費です。要介護状態によって、また多床室か個室かによって負担額は大きく異なります。
<要介護3の場合>
- 多床室:月額約9万円程度
- ユニット型個室:月額約14万円程度
このように個室型の方がずっと高くなりますが、収入が少ない世帯、生活保護世帯などであった場合は、補助金が支給されますので、自己負担額はもっと小さくなることもあります。
(2) 有料老人ホーム
有料老人ホームは、介護保険制度のもとで、「特定施設入居者生活介護」として提供される、在宅サービスの1つということになっています。これは主に民間企業が運営主体となっており、介護、食事などの日常的な介護サービスを受けながら高齢者が生活することができる施設です。特別老人ホームは入居するために条件がありますが、有料老人ホームは空室があれば入居することができます。また個室であることも多く、プライベートが確保できるという面でもメリットがあります。さらに、医療施設が併設されていたり、24時間体制の看護職員が配置されていたりすることも多く、サービスが充実している施設も多いです。これが民間が運営主体である魅力です。
自己負担額が少なく介護サービスを受けることができる特別養護老人ホームは、施設数が足りていないため、介護状態の重い方が優先的に入居することになっています。しかし、施設に入居したいという方は後を立ちません。そこで、ある程度資金的に余裕のある方は、この有料老人ホームに入居するのです。ただし、「有料」という名がつくとおり、特別老人ホームよりも入居には自己負担額がかかります。民間が運営主体であるため、施設やサービス度は多様であり、値段設定もさまざまです。ただし、一般的には以下のような費用がかかります。
- 入居一時金:数百万円〜数千万円
- 介護サービス費:月額約2万円程度
- 賃料、食費、生活費:月10万円〜20万円
介護サービス費は自治体や国が大部分を負担します。介護サービス費は要介護度が高くなるほど、自己負担額は少なくなるように設定されています。しかし、有料老人ホームは、入居時の一時金に大きなお金がかかるということと、月額の生活費などの負担が非常に大きくなってしまいます。要介護状態3の方では、月額20万円〜25万円程度の費用がかかると考えておいていいでしょう。サービスの質の高いところならば、さらに高くなります。
(3) サービス付き高齢者向け住宅
特別養護老人ホームは入居待ちが多いと説明しました。また、そこで入居待ちの方たちの一部は、有料老人ホームに入居するのですが、有料老人ホームは、その多くが自己負担額がかなり大きくなるため、資金的に余裕のある方しか入居できません。そこで特養の入居待ちで資金的に余裕のない方は、民間施設の1つであるサービス付き高齢者向け住宅を選んでいます。これは一時金は通常の住宅と同様に敷金などのみであり、数百万円、数千万円という負担はありません。運営は民間事業者です。
サービス付き高齢者向け住宅は、実は高齢者施設というよりは通常の住宅にプラスアルファの要素がついている、という形態のものです。高齢者が住みやすいように設備が整っており自宅のように自由な生活を送ることができます。入居する資金があり空室があれば、介護状態に限らず入居することができます。
利用できるサービスは、特別養護老人ホームや有料老人ホームに比べると少なく、安否確認や生活相談といったもののみです。しかし、必要に応じて訪問介護や食事の提供などもサービスとして受けることもできます。費用は入居時の敷金などの一時金がかかりますが、介護サービス費はこれも介護保険制度によって、介護状態に応じてカバーできます。主に必要になるのは、住宅の入居費です。入居費は通常の住宅よりも割高にはなりますが、トータルでは通常の生活プラスアルファの料金で生活できます。月額15万円〜20万円程度と考えられるでしょう。
世界のシニア向け老人ホーム事情の比較
日本は世界的に見て社会保障制度の充実した国です。それは介護保険制度を見ても同様です。世界に目を向けると介護費用は自己負担、もしくは民間の保険会社に頼ったものが多く、シニア向け老人ホームの多くは民間事業者が運営していて、その費用やサービス内容は多様に設定されています。地域によって違いは多く、たとえばアメリカは個人主義、自由主義の国であるため介護保険サービスも民間主体になっています。社会福祉という面から見てあまり充実したものではありません。それに対して、欧州のいわゆる社会民主主義国は、介護サービスも国家が負担するところが大きく、特にイギリスや北欧においては充実した介護サービスがあります。それぞれの制度や費用面を比較してみましょう。
1.アメリカ
アメリカは国家ができるだけ経済活動に参加せず、社会福祉は公共サービスも大部分が民間に任せられている、先進国の中では変わった国です。その理由として高齢化が他の先進国ほど進んでいないという事情もありますが、もともと自己責任論が強い文化であるという背景が強いです。そのようなアメリカですが、高齢者の医療に関しては「メディケア」保障があります。ただし、介護サービスに関しては個人が自分でお金を払ってサービスを受けるという認識に立っているため、社会保障で提供される部分は少ないです。高齢者は老人ホームに入居するのではなく自宅で暮らし、訪問介護サービスを受けるというのが一般的です。
公的な保障はありませんが、高齢者用アパートが存在します。月額費用は1500ドル〜2000ドル程度で、すべて自己負担です。食事など日常生活のサービスは提供されますが、介護サービスや医療サービスはありません。介護が必要な高齢者には、介護付き住宅があり、これは月額費用が2000ドル〜3000ドル程度になっています。一軒家のタイプとアパートのタイプとがありますが、高いところでは月額4000ドル以上、日本円にして約45万円以上という費用が必要になるため、資金的に余裕のある高齢者しか利用できないのが現状です。お金のない貧困層は、家族頼りの介護となってしまっています。
2.イギリス
イギリスの場合は、アメリカとは大きく異なります。イギリスは高齢化も日本と違ってゆるやかなペースで進んでおり、また社会保障が進んでいる福祉先進国であると言われています。医療サービスは基本的に無料で利用することができ、介護・福祉サービスに関しては自治体からサービスが提供されます。ただし、サービスの運用団体は民営化が進んで民間事業者が行っていることが多くなっています。しかし、イギリスでも介護サービスの利用自体は、原則的に自己負担です。そのためシニア向け住宅への入居も、基本的に自己負担になります。ただし、対人福祉サービスは一律無料化が提言され、介護施設での滞在費、個人ケア費は自己負担ですが、看護ケアにかかる費用は無料化されました。
日本と違い、介護施設は民営化が進んでいるため、介護施設というよりも長期的にサービスを受けながら高齢者が暮らす、高齢者住宅が主流です。高齢者向けの住宅に住みながら、自己負担のもとで、介護状態に見合った在宅介護サービスを受けるというのが、一般的な欧州におけるスタイルになっています。日本のサービス付き高齢者向け住宅と同様のものと考えていいでしょう。
3.オーストラリア
オーストラリアには介護保険制度がありません。そのため高齢者の福祉は税金から賄われています。オーストラリアの高齢者は、介護を受ける上で集合住宅(リタイアメントハウスなど)に入居するか、訪問サービスを自宅で受けるか、のどちらかを受けることができます。オーストラリアでは、シニア向け住宅の種類が多く、介護状態や要望、医師の診査によっていろいろな種類が準備されています。多くの高齢者は、まず自分で自立して生活するリタイアメントハウスに入居します。しかし、ここでは不十分になって常時介護サービスを受ける必要が出てくると、サービスアパートメントという常時介護士が滞在する集合住宅に入居します。このとき、リタイアメントハウスは元の8割程度の値段で売って、サービスアパートメントを購入するのが一般的です。
しかし、より介護状態が重くなるとナーシングホームと呼ばれる介護施設に入居することになります。ここでは、介護状態の重い高齢者を対象として、医療サービスまで受けることができます。介護サービスの利用料は、基本的に国・自治体が負担するため、オーストラリアの高齢者は生活費などの面以外では自己負担する必要はありません。
それぞれの国で制度は異なり、一長一短であることが分かると思います。さらに他の国と比較してみても面白いですね。