(写真=iStock/Happy family in bed)
2015年の外国人観光客数は1900万人を越え、観光客が国内で消費するインバウンド消費は3兆円を越えています。一方でホテル数の絶対的不足という新たな問題も発生しています。観光立国としての道を歩み始めた日本で、これからの民泊ビジネスはどのような方向へ向かうのでしょうか。
外国人観光客の急増
日本政府は2020年までに、外国人観光客を3000万人の大台に乗せることを目標にしています。事実、政府観光局が発表した2015年の外国人観光客数は1973万7400人というデータが出ており、2014年から600万人も増加しています。3年連続で過去最高の観光客数を更新し続けているのです。なぜこれほど増加しているのでしょうか。
それは、外国人観光客の7割以上を占めるアジアからの訪問客が急増したことが原因です。また政府の円安誘導によって、いわば日本全体が「セール状態」になっていることも原因の1つになっています。アジア全体が昔よりも豊かになっていることと、円安から日本への観光が割安になっていることから増加しているのです。
メリット・デメリット
外国人観光客の急増は、いい影響と悪い影響を残しています。いい影響とは、インバウンド消費の増加です。中国人による「爆買い」は流行語大賞になるほどで、大型の家電量販店には、外国人観光客用のコーナーができるほどです。免税店の数も以前より急増しており、インバウンド消費は2014年には2兆円を越え、2015年には約3兆7700億円にもなりました。インバウンド消費は大幅に伸びており、今後も増加して日本の消費を潤していくことが予想されます。
一方で、日本のホテル供給が追いつかないという深刻な問題が起こっています。空前のホテル不足です。外国人観光客用は観光客用のホテルだけでは足りず、ビジネスホテルやカプセルホテル、ドミトリーまで利用していますが、それでも供給数は追いついていません。ホテルが取れないことから、出張するビジネスマンが逆に観光客用の安いドミトリーに泊まるという状態も都内では常態化しています。
民泊の増加
このような背景から、日本の都市や観光地では、Airbnbをはじめとして民泊ビジネスが増加しています。民泊とは、ホテルや旅館とは違った一般の部屋に観光客を利用させ、料金を取る形態のことをいいます。
正規のホテルや旅館が埋まっていて予約がとれないことと、マンション・戸建てに限らず空き部屋が増えていることから、空き部屋を宿泊用にして活用しようと考えている人が増えているのです。
民泊は法律上グレー?
民泊は、旅館業法上は明確に線が引きにくいビジネスです。日本国内で観光客を宿泊させて料金を得るビジネスをするには、旅館業法で自治体の許可をとることが規定されているのです。自治体の許可をとるためには、宿泊施設としての衛生管理や消防法上の対策をクリアすることなど、条件が必要になります。
旅館業法上、Airbnbなどを利用して一般人が自宅の空き部屋を宿泊所として提供した場合、旅館業としてみなされます。一度人を泊めてお金を取ったから即逮捕ということはないでしょうが、近隣住民からの苦情がある中でも繰り返して営業しているようなケースでは、営業停止などの可能性もあります。
東京都足立区では、一戸建て住宅を勝手に宿泊施設として営業したとして、無許可ホテルを経営した容疑で英国籍の男が逮捕されたケースがあります。また、福岡県の議会では、届け出なしで民泊を営業した場合に違法になるという見解が出されました。
しかし、届け出のない民泊がすべて法に問われるかというと、必ずしもそうではないのが実情です。現行の旅館業法は、Airbnbをはじめとした民泊を想定していません。そのため、現状に法律が適合していないというのが実態だからです。
現実問題として国内のホテル・旅館は絶対的に不足しており、これから供給数が増えたとしても訪日外国人の増加には追いつかないでしょう。そこで、世界の都市がそうであるように、日本も民泊の規制緩和へと舵を切り始めました。
自治体レベルでの民泊規制緩和
民泊の規制緩和をしていくことは、これから確実に必要なことです。そこで、2013年に成立した国家戦略特別法では、特区内では民泊を旅館業法から除外するとしました。実際に民泊を営業するためには、営業する地域の自治体での条例でも旅館業法から除外することが必要ですが、全国に先駆けて東京都大田区では民泊の営業が可能になりました。大田区は民泊営業のためにガイドラインを作成し、今後の全国の自治体の民泊規制緩和の先例となることが考えられます。
大田区の規制緩和のポイントは、①営業できるのは規定された対象地域内②宿泊できるのは6泊7日以上から③観光客は身分証提示義務あり④一居室が25㎡以上、の4つです。特に宿泊は6泊7日以上から、というのは気をつけなければなりません。つまり長期滞在のみ認められるということです。その他は一般的な住宅設備があれば、条件はクリアすることができると思われます。また、旅館業法の規定をクリアする必要はありませんが、民泊許可の認定を申請して認定される必要はあります。
民泊の特区は、東京圏、関西圏、福岡市、仙台市、愛知県、広島県など多くの都市が指定されており、条例の整備が進んでいます。しかし、どこの自治体も規制緩和に右へならえしているわけではありません。
その例が台東区です。台東区では、民泊施設でも営業時間内は従業員を常駐させる、玄関帳簿の設備を設置するなど条件を国の規定する条件に上乗せし、台東区での民泊の営業は事実上困難になりました。
なぜ台東区は国の方針と対立するような、規制強化の方向に向かっているのでしょうか。それは、民泊がその住宅の大家や近隣住民との間でトラブルに発展するケースが増えているからです。2015年10月、京都府警は多くの外国人が出入りしているという疑惑から、府内のマンションを捜査しました。捜査の結果、マンションの36室に64人の中国人観光客が宿泊していることがわかり、マンション住民は騒音などで迷惑していたそうです。このようなトラブルが日本中の民泊施設で増えており、自治体としては安易に規制緩和へ向かいたくないという気持ちもあるのかもしれません。
訪日外国人と地域住民の利害関係を調整するのは、地域ごとの事情が影響しているようです。
今後の民泊の方向性
民泊の規制緩和は政府主導で行われていますが、自治体レベルでは、積極的に規制緩和ヘ向かう自治体、規制緩和に消極的な自治体、規制強化へ向かう自治体と、動きが統一されていないのが現状です。
しかし、現実として外国人旅行者は確実に増え続けており、政府も観光客増加に向けて様々な政策を実施しようとしています。ホテル・旅館の供給不足もまだしばらくは続くのが確実であり、これから民泊の需要が増大していくことはまず間違いありません。
世界の都市でも規制緩和は始まっており、観光客の取り込みとインバウンド消費の拡大のため、長期的には規制は緩和されていくのではないでしょうか。
確かに、現状では民泊ビジネスは様々な問題を抱えています。騒音トラブルをはじめとして近隣住民としては、民泊用の部屋が増えることには反対する人も多いでしょう。
しかし、民泊ビジネスはまだ始まったばかりで、新しいビジネスにさまざまな意見が出ることは自然なことです。実態と法律の乖離はこれから埋められていくことでしょう。
民泊の規制緩和は今後も注目していきます。
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