株式や為替などの金融市場では、10年に1度くらいの頻度で金融危機といわれる大きなショックが起きています。1997年にはアジア通貨危機が発生し、タイやインドネシアなどアジア各国の通貨が急落。タイ、インドネシア、韓国は大きな経済打撃を受け、3か国ともIMFの管理に入りました。
翌1998年にはロシアが対外債務を支払い停止にすると宣言し、実質的な債務不履行(デフォルト)状態に陥りました。ロシアの通貨ルーブルは急落、これを受けて米国の大手ヘッジファンドLTCMが破綻するなど世界的に金融市場が混乱しました。このとき、ドル円相場も急激な円高に見舞われました。8月に140円台だったのが、10月には110円台にまで円高が進んだのです。
それからおよそ10年後、2007年ごろにはサブプライムローン問題が顕在化し始めます。金融市場と世界経済の不安定化を受けて、2008年9月15日にリーマン・ブラザーズが破綻、10月8日には、欧米の6つの中央銀行が、異例ともいえる協調利下げに踏み切りました。実施した中央銀行は、米国の連邦準備制度(FRB)と欧州中央銀行(ECB)、英国、スイス、スウェーデン、カナダの中央銀行です。利下げ余地がなく、協調利下げに加わらなかった日本銀行は、欧米6中銀の行動を支持すると表明しました。
しかし、この協調利下げをもってしても、株価暴落のリーマンショックを食い止めることはできませんでした。
2015年、ロシアやギリシャで顕在化しつつある金融危機など、経済危機の火種は世界各地で見受けられ、今や大きな金融ショックに備えたリスク管理は欠かせない状況になっています。
金融危機の不動産リスクとは
不動産市場も、金融市場の混乱から無縁ではいられません。しかし、不動産は実物資産ですから、株式や債券のような金融資産とは異なり、値動きは比較的緩やかです。そのため長期保有でインカムゲインを獲得するのに適した資産といえます。
不動産投資で大きなリスクといえば、賃料収入が得られない空室リスクです。定期的に安定した家賃収入がある限り、超長期の投資スタンスでインカムゲインを狙うのであれば、不動産価格の低下はそれほど大きなリスクとしてとらえなくていいでしょう。
一方で、トータルリターンの最大化をめざす投資スタンスの場合、売却価格の変動など、先述した金融市場の影響を大きく受けることになります。また、不動産は流動性の低い資産のため、いざ売却しようとしても売却に時間がかかる場合があり、売却が成立する前にリーマンショックのようなことがあると、売ろうと思っていた価格で売れなくなる恐れがあるのです。
そこで、保有している不動産の値下がりリスクを、金融市場でヘッジする方法をご紹介します。
金融危機に備えた不動産のリスクヘッジ
それがJ-REIT(日本版不動産投資信託)です。J-REITの動きは実物不動産の動きと相関が高いので、J-REITのETFを空売りすることで不動産価格の値動きをある程度ヘッジできるのです。
最適なヘッジ比率は、不動産のリスク量(ボラティリティ)と、J-REITのリスク量、それと不動産とJ-REITの相関係数から求めることができます。リーマンショック前の2007年から直近までのデータでみると、最適なヘッジ比率は15%程度になります。
青線は「不動研住宅価格指数」(旧「東証住宅価格指数」)の東京の中古マンション価格の推移です。投資マンションの値動きを表す代替指数です。
赤線は東証REIT指数に連動するETFでヘッジしたケースです。マンション価格の15%に相当する額でETFを空売りした場合の試算値です(コストなどは考慮せず)。たとえば、2,000万円のマンションに投資している場合は、300万円ほどのETFを空売りすることで、不動産価格の値動きをある程度ヘッジできるというわけです。
不動産を保有しながら株式やJ-REITにも投資している場合は、ETFを空売りしないまでも、金融危機のときには流動性の高い株式やJ-REITの保有を減らしてリスクを調整するのもひとつの方法です。
このように、来る金融危機に備え、実物不動産のリスク調整のツールとしてJ-REITなどの金融商品を活用してみてはいかがでしょう。