3月23日の株式市場で、米国マクドナルド <MCD> の株価が上昇しました。マクドナルドが保有する不動産をREITに転換させることで、少なくとも200億ドル(約2兆4000億円)の価値を引き出せると、あるヘッジファンドが指摘したことが材料視されました。
マクドナルドが保有する不動産
マクドナルドの株価は、前週末比1.6%高の98.62ドルで終了。過去1か月のうちでは最大級の上昇となりました。ブルームバーグニュースによると、ヘッジファンドのマネージャーは、マクドナルドが保有している不動産をREITに転換するなどの事業再建を行えば、株価は169ドルに達する可能性があると述べています。
マクドナルドは、ファーストフードチェーンとしては土地や建物の保有比率が高く、店舗に関する土地の45%、建物の70%は自己所有です。今回のヘッジファンドの提案は、マクドナルドが保有している不動産をスピンオフ(分離)して、REITとして別途運営することで、マクドナルドの株式価値が高まるというものです。
米国REITの要件
米国REITは日本のJ-REITとは異なる形態をとっています。詳細にはあまり立ち入りませんが、日本のJ-REITが外部運用型の投資信託(投資法人)であるのに対し、米国REITは内部運用型の会社組織という違いがあります。
米国REITも、もともとは1960年代に外部運用型の不動産投資信託として始まりました。そこから制度の改正や発展を経て、現在では内部運用型の会社組織のREITが主流となっています。
米国のREITと一般事業会社を分けるポイントは、主に運営上と配当上それぞれの要件にあります。運営上の要件とは、REITの年間総収入の75%以上が、不動産からの賃料といった不動産関連収入からのものでなければならないという点です。配当上の要件とは、REITの課税収入総額の90%以上を株主に対して配当しなければならないというものです。
以上の要件は、不動産を運営し、不動産からの収益を投資家に還元するという、REIT本来の目的に合致したものです。
マクドナルドの場合
それではマクドナルドに例えて考えてみます。まず、ハンバーガーを製造・販売する本来の事業は、法人税負担のある一般事業会社として行います。店舗として所有している不動産はすべてREITに売却し、マクドナルドはREITに賃料を支払うことになります。賃料は費用項目なので利益を圧縮できます。
マクドナルドから分離したREITは、マクドナルドの店舗(不動産)を保有し、マクドナルドに貸して賃料を得ます。その賃料収入から賃貸の経営に必要な経費を控除して、残った利益を投資家に配当として支払います。このとき、配当要件を満たせば法人税が免除されます。税負担が軽減されるため、分離前のマクドナルドよりも、分離後のマクドナルドと新設REITの合計額のほうが企業価値は高まると考えられます。
また税効果の点で投資家から好まれるため、株価収益率(Price Earnings Ratio)の倍率などのバリュエーション指標で見たとき、一般事業会社よりも、REITの方が株価が高く評価される傾向があります。そのため、分離することで株式時価総額がより高まることも期待できます。
日本での実例
日本では既に似たような事業戦略を取っているREITがあります。わかりやすい例では、イオンリートです。イオンは小売り大手として初の自社REITを2013年11月に上場させました。イオングループが保有していた不動産(主にショッピングモール)を、新設したイオンリートに売却して分離したのです。
なお、イオンリートはイオングループで完結するリートであり、米国ではこのようなリートは「子会社リート(captive reit)」と呼ばれ、利益相反が問題視されます。REITの利益相反については完全な解決策は見当たらないのですが、REITは市場の評価にさらされますので、市場からの牽制が働くことが期待できます。
利益相反の問題はあるものの、企業の保有している不動産がREITという形で市場化されることは、投資家からすると、投資対象が広がるメリットがあります。言い換えると企業にとっては資産の有効活用、投資家にとっては資金の有効活用と考えることもできます。
冒頭のマクドナルドに対するヘッジファンドの提案は、不動産の所有と利用を分離することで経済価値を高めることができるというものです。不動産を自分で保有し利用するよりも、役割を分担した方がより価値が高まるというのは、示唆に富んだ提案といえるでしょう。