アベノミクスによって地価や取引数が上昇
2014年12月に行われた衆院選で自民党・公明党政権はほぼ選挙以前の議席を獲得し、アベノミクスを基本路線とした政策続行が確定した。ここでは、アベノミクスが「今回の衆院選以前に不動産市況に与えた影響」と「今後、不動産市況に与える影響」を考えてみたい。
まず衆院選前の影響だが、アベノミクスは不動産市況に「表面的には」大きなプラスだったように見える。プラス要因の代表は、地価上昇である。国土交通省が2014年11月28日に発表した地価動向報告では、東京圏(1都3県)において10月1日時点の地価が下落しているところがなかった。東京都の土地取引の件数においても、平成24年の182,195件に対し、平成25年は195,902件であり、108%の伸びを示している。ちなみに平成23年は162,202件であり、わずか2年で3万件以上も増加している。
「中古物件取引」は長期減少しているのか
このように不動産市況全体という大枠で見ると、アベノミクスのプラス効果を感じるが、部分的に見ていくと気になる点もある。例えば、東日本不動産流通機構のレポートによると、中古マンションの2014年11月段階の東京都内の成約件数は2,830件で「8か月連続減少」している。一方で、坪単価や平均価格は上昇していることを勘案すると、成約件数が減少傾向にあるのは、「前年度に成約数が伸びた分の反動」や「在庫減少の調整」によるもので不安要因ではないだろう。中古戸建てもほぼ同じ状況で、成約件数自体はマイナスが続いているが平均価格は上昇している。
対極的なのは、不動産投資家の物件を管理する賃貸管理業である。現場からは、「以前よりも楽な商売ではなくなった」「会社の成長が鈍化しはじめている」といった苦境の声が多数聞かれる。いくら株価や土地が上昇しても、所得が増えていない一般消費者を対象にする賃貸物件では家賃を上昇させるのは難しい。これに加えて、若年層の減少による市場縮小、それに伴う物件同士の競争激化がはじまっており、投資家には「優良物件を見抜く目」がさらに求められる。
ここまで大都市の不動産市況の視点で解説してきたが、地方に視点を移すとどうだろうか。毎日新聞の2014年9月19日付の報道によると、地方圏は「住宅地が1.8%下落(22年連続マイナス)」、「商業地は2.2%下落(23年連続)」で、アベノミクスの地方への貢献度は低いといわざるをえない。
あくまでも、「東京圏を中心とする大都市エリアの地価や取引数に限定的に貢献している」とアベノミクスを表現するのが正しいだろう。
東京オリンピック再開発による影響は?
次にアベノミクスが、「今後、不動産市況に与える影響」を考えていこう。
プラス面では、今後も積極的な金融緩和により、市場に資金が潤沢に供給され、為替も円安ドル高によって株式市場や不動産市場に投資マネーが流れ込むことが予想される。この点では、衆院選以前と変わらない。
加えて、不動産においては、東京オリンピック・パラリンピックに向けた準備や都心部や品川駅周辺、羽田空港周辺等、国際ビジネス拠点としての再開発が推し進められ、また、2015年にはリニア新幹線が着工され、駅周辺の開発も進む。
投資家の目はどうしても、「東京オリンピックやリニア新幹線の効果」があるエリアに向く。だが、これらのエリアには、付加価値が高い不動産が集まっているという点に注意が必要だ。付加価値が高い不動産のためもともと価格が高く、東京オリンピックによる値上がり幅も極端なものではないはずだ。そのため、短期的に多額の利益が得られる可能性は低い。
アベノミクスが醸成する「景気が良い」という雰囲気に惑わされず、「低いリスクで長期的に利益を得る」という不動産投資のセオリーを守って手堅く投資していくのが最善の策であろう。