相続時には、処分に困る不動産の押し付け合いになる、というケースが増えています。不動産を相続してしまうと、維持管理の費用や固定資産税などの税金もかかるため、誰もが処分に困っています。相続したくない不動産がある場合にはどのようにしたらいいのでしょうか。
不動産を保有するコスト
■ 不動産の押し付け合いが増えている
一人暮らしの親が亡くなり親の持つ不動産を相続することになったが、手間や相続税の問題などから相続をしたくない、というケースは多くあります。現代人は多くが親と別のところに住んでおり、その土地で仕事をしています。自分で購入したマンションなどがあれば、そのローンなどもあり、実家の固定資産税を払い続けることも負担になります。自分の家庭や仕事のことを考えれば、親の持つ不動産を相続することにメリットはありません。昔ならば親の資産を巡って遺族が争う、ということもありましたが、現在では誰も相続したくないという新たな問題になっています。
しかし自分に都合の良い資産だけを相続し、自分に都合の悪い資産だけを放棄することはできません。相続を承認するなら親の資産と負債をすべて受け継ぎ、相続を放棄すればすべてを放棄し、限定承認なら相続によって得た資産の限度で被相続人の負債を受け継ぐことになります。相続対策は誰もが考えなければならない時代です。
■ 不動産相続のコスト
不動産の相続にはどのくらいのお金がかかるのでしょうか。相続税は土地と建物にかかりますが、土地の場合は路線価額もしくは固定資産評価額に一定の倍率をかけて求められます。建物の場合は固定資産評価額と同額です。そこから控除などを差し引いた額に相続税率がかけられて納税額が算出されます。税額計算のためには、毎年4月〜6月に送られてくる固定資産税の納税通知書を見て、固定資産評価額を把握する必要があります。こうして相続財産が把握できれば、次に遺産分割協議書を作成して、誰がどの資産を相続するのかを決めます。こうして誰がどの資産を相続するのかを決めることで、はじめて相続税も計算することができます。
しかし、不動産を相続した場合の負担はそれだけではありません。相続した不動産は遺族の誰かが所有することになりますが、不動産を持っていれば毎年固定資産税を支払わなければなりません。別のところに住んでいて自分たちは住まない、しかも田舎であるため売却しようと思っても買い手がいない、というケースでは、固定資産税を支払うだけでデメリットしかありません。所有する物件は放っておけば荒れていきます。そのため定期的に管理しにいくか、業者に頼むかしなければなりませんが、これも手間とコストがかります。荒れた空き家を放置していれば、行政から指導されることもあります。だからといって更地にしてしまえば固定資産税が上がってしまいます。
いらない不動産は、相続した後で所有権を放棄すればいいのでは?と考える方もいるかもしれません。しかし、現実には不動産の所有者が一方的に所有権を放棄することはできません。どうするのがもっとも負担を小さくすることができるのか、なかなか難しいと考えている方が多いのはこのためです。
不要な不動産の相続はどうする?
■ 換価分割
それでは不要な不動産はどのようにしたらいいのでしょうか?買い手のいる物件であれば、売却して現金化し、現金を遺族で分割するという方法が現実的です。不動産は相続時、基本的に遺族で共有している状態になっています。そのため自分だけで勝手に売却することはできません。相続人の間で売却の合意に至ることが最初のステップになります。遺産分割協議を行なって「換価分割」を行なう取り決めをするのです。遺産分割協議は、相続を承認するか放棄するかの期限(3ヶ月)と、相続税申告の期限(4ヶ月)があり、しれまでに遺産分割協議書を作成しておくことが必要です。
相続人の間で換価分割の合意を得ることができれば、次に登記を1人の相続人に変更します。その相続人が不動産を相続・売却し、手元に残ったお金を相続人の間で分割するという手続きをとるのが一般的です。わざわざ1人の相続人に登記を変更するのは、共有状態のまま売却するのは難しいからです。
遺産分割協議を行なう過程では、実家には思い入れがあるから売却したくない、という相続人が出てくるケースも多いです。そうなると換価分割を行なうことが難しくなりますので、協議を行なう前にいくつかの不動産から売却したときの見積もりを作成してもらい、協議のときにそれを提示するというやり方があります。そうすることで円滑に換価分割に同意を得ることができることもあります。
■ 買い手がいなければ更地
しかしこれは買い手がいて売却することができるケースです。田舎の物件ならば、価格を下げても買い手がいないことも多くあります。地方の田舎で築古物件ならば、個人でも法人でも買い手がいないことがあります。現在は全国的に買い手のいない物件が多く存在しており、自分の相続する物件もそうなる可能性は高いのです。
そのようなときによく考えられるのが、市町村への寄付です。不動産を市町村に寄付すれば、それは国庫に入ります。つまり自治体の所有物になります。寄付であるので利益は出ませんが、固定資産税の支払いなどを避けることを目的に手放すならば、有力な手段です。ただ、市町村もどのような物件も寄付を受け付けるわけではありません。市町村が保有しても管理費用などはかかるため、基本的に個人や法人などの一般に買い手がいない物件ならば、市町村が寄付を受けない可能性が高いのです。
そうかといって空き家のまま放置するのは非常にリスクがあります。空き家が倒壊して周囲の人や建物などを傷つけてしまった場合、多額の損害賠償を負担することになるかもしれません。このような買い手のいない物件は、倒壊する前に建物を崩して、更地にしてしまうのがもっとも簡単な対処法です。
基本的に建物のあった土地を更地にすると固定資産税が上がりますが、更地にするタイミングによっては上がらないケースもあります。平成27年から施行された空き家対策特別措置法では、「特定空家」の対象となった空き家は、取り壊しても固定資産税が上がらなくなりました。そのため空き家は危険性がなければしばらくそのまま放置しておいて、特定空家の通告があってから取り壊せば、固定資産税が増額されることはありません。買い手・貸し手のいない土地などはこのような対処をするしかないでしょう。
相続しないという手段もある
これまでは不動産を相続することを前提に解説してきましたが、相続しないという手段ももちろんあります。相続しない手段には、相続放棄があります。ただし、相続の放棄は資産と負債のすべてを放棄することになりますので、「この物件だけを放棄したい」ということはできません。
相続対策で不動産の処分を考えるならば、専門家と相談しながらあらゆる手段を視野に入れて考えていくことになるでしょう。