資産運用には、株式、債券、投資信託、不動産と様々な種類のものがありますが、不動産投資の特徴は不動産価格の「粘着性」です。粘着性とはどういう意味でしょうか。不動産投資が持つ他の投資にはないメリットとはどのようなものでしょうか。
金融資産への投資より不動産投資は安定している?
「資産運用」「投資」と言うと、多くの方がまず思い浮かべるのは株式など「金融資産」への投資ではないでしょうか。そして同時に思い浮かべるのが、投資による損失、つまりリスクの存在でしょう。
リスクと言うと、多くの方はマイナスの印象を持つかもしれませんが、投資におけるリスクとは、必ずしも悪い意味のものではありません。投資におけるリスクとは、端的には価格の変動性(ボラティリティ)と言ってもいいかもしれません。たとえば株式投資の場合、価格の変動性が高いほど、得ることのできる利益・損失は大きくなります。価格の変動幅が大きいほど、価格がマイナスに振れたときの損失も多額になりますが、プラスになったときに得られる利益も多額になります。つまりリスクとは、それだけで悪いイメージを持つものではなく、変動幅の大きさを表すものなのです。投資はリスクを抱えますが、リスクを抱えることは悪いことではないのです。
また、投資によって得る利益には、売買によって差額で得る利益である「キャピタルゲイン」と、その投資対象を保有することで得ることができる「インカムゲイン」の2種類があります。たとえば株式の場合は、配当金や株主優待などがインカムゲインになります。しかし、多くの投資家はインカムゲインではなく、価格差による大きな利益が見込めるキャピタルゲインを得ることを目的として投資しますし、この動きは特に金融資産への投資において一般的に見られます。ただ、キャピタルゲイン目当ての投資は、価格が下落すれば損失しか生まないというデメリットもあるのです。
こうした金融資産への投資の持つ不安定性というデメリットに対して、不動産投資には価格と賃料の「粘着性」という特徴があります。金融資産の価格は市場の動向によって大きく変動するのに対して、不動産価格や賃料はゆっくり変動します。賃料はその他の投資に比べると安定的に推移しますので、安定した投資が可能であるという特徴があるのです。この特徴は、株式など金融資産への投資が損失を被りやすくなる景気の減退局面において大きなメリットになります。
不動産に粘着性があるのはなぜか?
粘着性とは、価格が変化しにくい、元の価格から大きく乖離して変動することが少ない、元の価格から大きく乖離して変動するまでに時間がかかる、ということです。価格変動がゆっくりしているというイメージでいいでしょう。
不動産価格の粘着性には、賃貸契約という特殊性から説明されることが多いです。賃貸料は入居するテナントから支払われますが、この賃料が毎月変動することはありません。多くの場合、入居者は2年、3年といった長期間で契約し、その間の賃料は固定されます。不動産市場で需給の変動が起こっても、個別の物件で見れば賃料は契約期間中は変化しないという特徴があるのです。これは、金融資産などにはない、不動産投資の大きな特徴です。
また、この契約期間が終わり、延長契約が行われる場合も、賃料は変化しないことが多いです。これまで入居していた入居者に対して、契約更新にあたって大家が家賃の上乗せを交渉するのは難しいですし、逆に入居者の側が大家に対して家賃の値下げを交渉するケースも稀でしょう。このような理由から、賃貸物件における賃料は変化が少なく、不動産市場に変化があっても賃料は安定しているため粘着性があるのです。つまり、金融資産への投資などに比べると、大きな変動によるリターンは少ないかわりに、安定して収入を得ることができるわけです。
不動産投資は景気減退局面で活かされる?
このような、価格の粘着性という特徴を持つ不動産投資ですが、大きなリターンを投資に期待する方からすれば、不動産価格の粘着性はデメリットと捉えられるでしょう。そもそも投資は、ある程度の利益を得るために行う人が多いのは当然です。また、投資といっても自分で事業を行うのは非常に手間がかかります。少ない手間で大きなリターンを得たいというのが、多くの投資家の本音ではないでしょうか。
そのような投資家からすれば、安定性はあっても、金融資産の投資に比べたら手間が大きく、またリスクが少ない代わりにリターンも少ないという不動産投資は、魅力のないものに映るかもしれません。
しかし、それは金融資産への投資と実物資産への投資の特性の違いと言えます。不動産投資のメリットの一つは、継続的に賃料収入が得られるという点です。
不動産価格の粘着性にも関わるものですが、不動産投資は景気の減速局面でも一定の利益を得ることが望めるという点で、金融資産への投資とは一線を画すものなのです。不動産価格は、ここまで説明したように価格の変動幅が少ない、変動スピードが小さいものです。一方株式を中心とした金融資産は、景気の減速局面では大きく変動します。日経平均株価などを見ていれば分かりますが、景気が少しでも悪くなりそうな見込みになると、投資家の心理が一気に冷え込み、株価も一気に下落します。下落局面に入ると、個人投資家が利益を得ることは難しくなります。
しかし、不動産投資ならば、不動産価格や賃料は、減速局面に入ってもゆっくりと推移するため、一時的に景気が悪化しても安定して収益が得られるのです。多少景気が減速しても、入居者がすぐに割安な物件に移ることは少ないですし、契約期間中は賃料を下げる必要もありません。
景気の減速局面においても一定の賃料収入が得られ、自分の手で運営の工夫もできる不動産投資は、金融資産への投資に比べても魅力的な特徴を持っているのです。