2020年の東京オリンピックに向けて、都内各地でさまざまな動きが出ている。江東区を中心に湾岸エリアでは、各施設が競技場として使用されることが予定されている。例えば、品川区では潮風公園がビーチバレーの競技場に、大田区では大井ホッケー競技場がホッケーの会場になる予定だ。競技場以外にも、オリンピック終了後も人々に影響を与える施設の建設が予定されていて、その一つがJR・東急の蒲田駅と京急蒲田駅を地下で結ぶ、通称「蒲蒲線」だ。この「蒲蒲線」により羽田空港へのアクセスが大きく変わる。今回はその影響を受ける品川区と大田区について今後の動向を予想してみよう。
注目の蒲蒲線
2010年に国際線ターミナルが拡張された羽田空港。ますます利便性が高まっている羽田空港への鉄道アクセスは、東京モノレールと京急蒲田駅から支線として延びる京急空港線の2つだ。そのため東京の東側から羽田空港へのアクセスは、浜松町からモノレールに乗るか、もしくは品川駅から京急本線で京急蒲田駅に向かい京急空港線に乗り換えて羽田空港に向かうパターンとなる。
大田区内の東西の移動が可能
ここで蒲蒲線ができると人の流れが大きく変わる。東急池上線や東急多摩川線、京浜東北線と接続されるため大田区の西側からダイレクトに羽田空港へアクセスが可能となるのだ。田園調布から18分、武蔵小杉から14分も羽田への時間が短縮される。大田区は東京オリンピックが開催される2020年中に暫定開業させ、2024年中に全線開業を目指す方針を発表した。
新しい賃貸需要の可能性も
もともと空港関係で働く人たちがその沿線に住むことが多いため、空港周辺は賃貸需要が安定しているものだ。実際、京急空港線や京急本線には空港関係者による特殊な賃貸需要がある。さらに蒲蒲線ができれば、JR・東急の蒲田駅経由でアクセス可能になった地域の賃貸需要が伸びることが予想される。さらに、LCCの飛行機が発着するようになって成田空港周辺にキャビンアテンダントや整備員、グランドホステスといった人たちの寮が生まれているように、今後、国際線を中心に羽田空港の発着数が伸びていけば、さらなる需要が見込める。
両区の賃貸マンション建築規制の相違点
では仮に空港関係者の賃貸需要が発生したとして、大田区と品川区ではどちらが賃貸マンションを建てやすいのか、各区のワンルームマンション建築の規制条例を見てみよう。まず、ワンルーム条例の対象となる建物の定義が異なる。大田区では「15戸以上の集合住宅」、品川区では「3階建て以上かつ30㎡未満の住戸が15戸以上で総戸数の3分の1以上の集合住宅」が対象となる。大田区のほうが、少し規制対象が広く厳しい条例と言える。次に、最低住戸面積では、大田区は25㎡以上、品川区では第一種低層住居専用地域では25㎡以上、それ以外では20㎡以上と定められている。賃貸マンション事業は通常、第一種低層住居専用地域以外の地域で行われることが多いため、品川区の実質的な最低住戸面積は20㎡以上となる。つまり品川区のほうが賃料単価の高いマンションを建築することが可能だ。
こんなにも違う両区の収益性
このワンルーム条例の規制の違いが収益性にどの程度インパクトを与えるのか、HOME’Sの家賃相場を参考に見てみよう。大田区のワンルーム相場は月7.25万円のため、25㎡に対しては2,900円/㎡となる。一方、品川区のワンルーム相場は月8.45万、20㎡に対し4,225円/㎡だ。両者を比較すると、品川区の賃料単価は大田区の約1.5倍もの開きがある。
賃貸なら品川区、分譲なら大田区
このように、賃貸マンションの世界では、蒲蒲線ができたとしても、引き続き京急本線大森海岸駅以北の品川区に軍配が上がりそうだ。一方でJR京浜東北線の蒲田駅はJRと東急、京急の3路線の結節点となるため、分譲マンションのエリアとしてはかなり価値が上がるものと思われる。概して言えば、東京オリンピックに向けてインカムゲインなら品川区の京急沿線、キャピタルゲインなら蒲田駅周辺ということだろう。