訪日外国人が増加、民泊などの受け入れ体制は?

訪日外国人が増加、民泊などの受け入れ体制は?

カプセルホテルに泊まる外国人(写真=iStock/カプセルホテルに宿泊する訪日外国人)

 訪日外国人2000万人時代を迎え、国内の受け入れ態勢が充分でないことが問題になっています。ホテル不足は宿泊料の高騰にもつながり、多くの人が不便を感じています。観光立国政策を推進するため、どのような施策がとられているのでしょうか。

訪日外国人は急増している

 訪日外国人は急増しています。政府の統計によると、2014年の訪日外国人数は年間約1340万人でした。しかし、これが2015年には50%近くも増えて、約1970万人にもなっています。1年間で600万人も増えたのです。
 2016年も1月から3月までの3ヶ月ですでに570万人を越えており、2015年からの伸び率は40%近くにもなっています。このままのペースで伸びれば、2016年は2000万人を軽く越えて2200、2300万人にもなるかもしれません。
 訪日外国人の増加に伴ってインバウンド消費、つまり外国人観光客の日本国内での消費が大きな額になっています。観光庁の調査では、2012年の1人あたりの日本での旅行支出は13万円でしたが、2015年には消費額の大きな中国人観光客が増えたことによって、17.6万円まで増加しています。単純に訪日外国人の数が増えただけでなく、消費額も増えたことから2015年のインバウンド消費は3.4兆円にもなっています。
 これほど訪日外国人が増えているのには、要因がいくつかあります。1つは訪日外国人の大半を占めるアジア人が豊かになったことです。特に中国は、富裕層だけでなく中間層も観光や買い物を目的として日本に来ることが多くなりました。
 日銀の円安誘導によって、外国人が日本に旅行しやすくなったことも要因の1つです。2011年には70円台だった円相場は現在110円近辺になっており、40円近くも円安になっています。外国人にとっては、日本への観光での滞在費から食費、移動費、買い物などすべてが割安になっているのです。

訪日外国人はさらに増える見込み

 日本政府はさらに訪日外国人の数を増やそうとしています。「観光立国」政策です。日本政府は観光産業を、経済成長のための非常に重要な成長分野であると位置づけており、世界の観光需要を取り込み、観光地をはじめとする地域の活性化、雇用の拡大を見込んで観光産業を積極的に推進しようとしています。
 観光立国政策では、東京オリンピックのある2020年までに訪日外国人を2000万人、2030年に3000万人以上にすることを目標として掲げています。目標達成のためにはビザの要件緩和や免税店の増加、国際会議の誘致などのアクションプランが立案されています。

ホテル数が不足、予約が取れない現状

 訪日外国人の増加と観光立国政策を推進する一方で、受け入れ態勢が伴っておらず、空前のホテル不足が問題化しています。民間ではAirbnbなどの民泊がすでに浸透していますが、政府も民泊に対するルール作りを始めています。

 ≫ 外部記事:民泊 管理者置けば届け出で営業可能に(NHK)
 ≫ 過去記事:Airbnb・民泊をめぐる最近の規制緩和の動き

 訪日外国人の宿泊数は2015年に5億泊を超えており、国内の宿泊施設は圧倒的に不足しているのです。ホテルは稼働率が80%を越えると予約が取りにくくなるのですが、観光庁の調査によると、2014年には東京や大阪のホテルの稼働率がとうとう80%以上になりました。特に観光地では高く、京都ではシティホテルの稼働率が88%以上、ビジネスホテルでも83%以上になりました。

 予約が取れないだけではありません。ホテル不足は宿泊料の高騰にもつながっています。シティホテル、ビジネスホテルに限らず、観光地のホテルの宿泊料は一昔では考えられない高値になっています。某ビジネスホテルでは、以前は朝食付きで1泊7000円から8000円程度だったものが、現在では1万5000円以上になることが珍しくなく、日程や場所によっては2万円を越えるケースも出ています。宿泊料高騰の影響は、訪日外国人だけでなく、国内での旅行者や出張するビジネスマンにも影響しています。観光に来ている外国人も、日本人の国内旅行者も、出張するビジネスマンも、ホテル・旅館不足の影響を強く受けているのです。

部屋がますます足りなくなる

 宿泊数5億泊、訪日外国人数1970万人を越えた2015年でこの状況ですから、軽く2000万人を越えると思われる2016年以降、とくに東京オリンピックの開催される2020年は、さらにホテル・旅館の供給が足りなくなるのは明らかでしょう。
 2014年から2015年で、訪日外国人数は1340万人から1970万人まで約630万人増加しています。外国人の宿泊数はこの1年間で約4400万泊から約6600万泊へと約2200万泊増加しています。訪日外国人数も宿泊数も、共に40%以上増加しているのです。

 ここで、今後の国内宿泊施設需要を予測してみます。2016年に訪日外国人数2100万人を達成し、2020年に2500万人を達成すると仮定してみましょう。2014年、2015年の外国人の宿泊数を訪日外国人数で割ると、訪日外国人は平均約3.3泊していることになります。
 これを元に計算すると、2016年には6930万泊、2017年には7260万泊まで宿泊数が増加することになります。さらに2020年には8250万泊と8000万泊の大台を超え、2030年に3000万人を達成すると宿泊数は外国人だけで1億泊近くになってしまいます。これから年間1000万人ずつ訪日外国人数が増えていくとすれば、毎年330万泊の宿泊が増えることになります。
 ホテルの建設・開業ラッシュは始まっていますが、とても追いついていません。供給が需要に追いつかない状態は、今後も継続していくことが予想されます。日本人・外国人に限らず、今後も予約が取れない、取れてもリーズナブルな値段で宿泊することができない、といった現状も継続していくでしょう。
 オリンピックに向けて観光立国政策を進める日本ですが、受け入れ態勢は整っていないのです。

政府の対応は不十分

 日本政府は観光立国政策を進めていくために、日本文化の発信や空港など交通機関の整備、外国人にも読める看板・案内板の設置、観光資源の発掘、ビザ発給用件の緩和など様々な施策を行っています。しかし肝心の宿泊先という受け入れ態勢の整備は、充分ではありません。せっかく外国人に興味を持ってもらい、観光しやすい整備を行っても宿泊することができなければ、訪日外国人の来日には限界がくるでしょう。観光立国政策も半端なものに終わってしまいます。

 ホテル業界での建設ラッシュは起こっていますが、建設コストの増大からまだまだ需要をカバーするほどのものにはなっていません。2015年から2018年までの新設ホテルは、約2万3000室あるという調査がありますが、これでは需要を満たすことはできません。実際に計算してみましょう。2015年から2018年までで訪日外国人が2300万人まで増加すると仮定すると、2018年の外国人宿泊数は7590万泊と2015年から1000万泊近く増加することが予想されます。それまでに2万3000室のホテルが増加し、回転率が年間100回あるとしても、受け入れることができるのは230万泊です。おおざっぱな計算ですが、これに簡易宿泊所の増加が加わっても、1000万泊という宿泊需要の増加を満たすことはできないのではないでしょうか。
 ホテル業界は供給を増やすだけでなく、リーズナブルな価格で宿泊することができるカプセルホテルやドミトリー・ゲストハウスなどの簡易宿泊所も増加させていますが、これも充分ではありません。また簡易宿泊所では家族やカップル、友人と一緒にゆったりとくつろぐこともできません。

あらためて民泊に注目

 そこで注目が集まっているのが、ホテルでも旅館でもホステルでもない、民泊です。空き部屋を一般人が外国人向けに貸し出すことで、需要の受け皿となるのです。
 政府は民泊に対する規制を緩和しており、実際に営業する民泊施設はどんどん増えています。今後は、ホテル・旅館などの既存宿泊施設の増加だけではなく、ホステル・ドミトリーのような簡易宿泊所も供給が増え、さらに民泊も増えていくという形で宿泊方法は多様化していくのではないでしょうか。
 今後も民泊をめぐる規制の動向には目が離せません。

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