
株式会社さくら事務所 創業者・会長 長嶋修(左)
リーウェイズ株式会社 代表取締役CEO 巻口成憲(右)
目次
今後の不動産取引はグローバル化していく
日本の不動産市場には透明性が求められている
これからの不動産業界に起こりうる変革
<前半の対談記事はコチラ>
今後の不動産取引はグローバル化していく
巻口:住宅のマーケットが全体的に抱えている課題はたくさんありますが、この中で投資用不動産の話に限定していくと、自宅にさきがけてグローバルな取引マーケットが徐々に構築されつつあります。とはいえ海外の投資家が日本の不動産を買う時に、必要となる分析情報はまだまだ少ないのが現状です。
長嶋:海外の不動産投資家は、投資の判断データが少ないこともあり日本の不動産をあまり買わないですよね。
巻口:海外からの日本の不動産購入をさらに活発にすることで、マーケットを、要するに日本のGDPを押し上げる一つの起爆剤になると思います。この投資用不動産、賃貸用不動産のマーケットが更に発展していくためには、長嶋さんのご意見として、何が一番重要なポイントになるとお考えになりますか?
長嶋:まさに今おっしゃった通り、外国人買いが増えないと、流動しないので、世界基準、世界レベルでのデータベースの整備とか、買い手の契約内容とか、泥臭いところで言うと、普通の賃貸借契約を見直すとか、データもそうですが、そこをどうやって、世界基準に合わせるかです。
巻口:実際にデータを集約するという流れがある中で、契約手続き的なところで言えば、例えばアメリカではオンラインサインだけで契約手続きが済んでしまします。非常に簡便化された取引手続きも整備されています。日本としてはまだ、オンライン市場で投資用物件を売買できるようなマーケットにはなっていません。
長嶋:オンライン取引は危険だと思っているんですよね。業界団体は。
巻口:その辺の課題を一つ一つ解決、クリアしていかなくてはならないのですが、どうでしょう、政府としてはオンラインの投資マーケットはそんなに重要視していない状況でしょうか?
長嶋:たった今、そこに目が向いていないんですね。賃貸契約は、オンライン契約でできるのではないかという実証実験をやっているという程度です。ここである程度うまく回りだしたら次は売買ね、ということになると思うのですけれども、収益物件でそこが肝だねという話は聞いたことがないですね。
巻口:賃貸のマーケットは必ず裏に投資家さんがいらっしゃるので、表裏一体のはずなのですが…
長嶋:もちろんそうです。
巻口:実際に日本のGDPを押し上げるために、オリンピックを起爆剤にしようというのも、確かに一つの方向性だと思いますが、構造的に人口が減っていっているという現状の課題があるなかで、自宅のマーケットを盛り上げていこうということは難しいところがあると思っています。日本の持ち家率は60%で、残る40%は投資用不動産となっています。片手落ちになっている投資不動産のマーケットを盛り上げていく取り組みが、経済活性化には必要な気がしますね。
長嶋:効率的な観点から判断すれば、まさにそうなんですよね。

日本の不動産市場には透明性が求められている
巻口:我々は、「Gate.」というサービスによって、これまで透明性が低かった、不動産のより詳細な収益性について公開していくことで、経済的な資産価値を提案するという取り組みを行っています。一方でさくら事務所さんが取り組まれている、物理的な資産価値構築のサポートは、どうしても現場に行かなくてはいけないし、そこの分析もプロの意見の方が確実です。マーケットは依然として20年も、30年も残ると思うのですが、住宅市場の透明性を高めるためには、教育以外に、何か取り組む課題をお持ちですか?
長嶋:インスペクションしたデータをまずは蓄積する事が大事ですね。政府も、そこが大事だと考えていて、設計図書、竣工図面、リフォームしたらその図面と、(費用の)内訳、どこかをインスペクションしたら、そのデータをみんなで蓄積していきましょうという、私もそこの委員になっているのですが、それを融資とか評価に生かせるようになるといいですよね。
数年前に、この住宅データを蓄積するという協議会ができたのですが、大手事業者の協力が得られませんでした。
巻口:なるほどなるほど
長嶋:不動産事業者によっては情報を囲い込みたがる。結局みんなで、バラバラで作りましょうといって、今、何十も何百もデータベースがあるという状況になってしまっています。これだと、せっかく個別に集めたものを活用できないので、昔のレインズといっしょですね。昔レインズって106個あったのですが、1983年に、1個に集約していきましょうよという意見になりました。
巻口:政府的な取り組みとしては、何か情報を積極的に公開していく流れにするというような動きはないのですか?
長嶋:政府としては、レインズを改革して、公開して、ということをやりたかったのですが、なかなかアナログから離れられない古い人が多い。それはもうあきらめて、新しいものを作ろうというのが今の新しい動きです。当初は来年度から、(レインズは)宅建業者だけが見られるものになっておりますが、もちろんそこだけでは終わらないと政府も考えていて、このデータを物件検索サイトに、おそらく有償で提供することになるのではないかと思います。まあ、アメリカと同じ方式です。それを検索サイトは、より面白くとか、より分かりやすく見せて、一般のユーザーを引きつけることに、最終的にはなると思いますが、一刻も早くそれを進めて欲しい。

これからの不動産業界に起こりうる変革
巻口:実際に今、日本の課題がいろいろと出てきたのですが、そこに至るまでに、まだまだ業界人の意識を変えていく必要があります。そうは言っても、彼ら自身としては目の前の取引をやらなくてはいけないというプレッシャーが非常に大きいと思います。なかなか長期的な目線に立った取り組みができないという問題です。ここに対して、教育や、制度とか、業界人のレベルを上げていくという施策が非常に重要だと思うのです。
長嶋:そうですね、宅地建物取引士と、士業になりましたが、中身が何も変わっていませんね。ここ最近は不動産も金融商品化したということで、この業界にもかなり優秀な人たちが入ってくるようにはなりました。ですが、結局は実務の仕事の中では、紙の販売図面を提供するだけなど、判断材料の少なさ、アドバイスの稚拙さが目立つ。こういう状況だと、どこまで行っても信頼される業界にはなりにくいし、ましてや世界と全然戦っていけない。だれも買ってくれない、という状況にすらなってしまいます。
巻口:アメリカでは不動産エージェントはかなり市場から信頼されていて、まさにプロフェッショナルという立ち位置ですが、一方日本では全然、そこまでのレベルには至っていません。
長嶋:うさんくさい。と感じられている。
巻口:「不動産屋」=「悪徳業者」というイメージがあり、それでよしとしてしまっている人たちが非常に多いんですよね。それでもビジネスが成り立ってしまっていますから。ただ時代の背景上、そうではないマーケットがいずれ必ず来るはずです。ここの透明性を動かすフック、不動産業界のエポックメイキング的な大きなインパクトは、長嶋さんのご意見としては、どのようなものがあるとお考えでしょうか?
長嶋:一つは今やっている情報の整備とそれをうまく公開する事、あとは巻口さんもおっしゃったように、より魅力的な業界にしないとまず優秀な人が入ってこないし、業界にとどまることがないので、最終的には、BtoBのコンサルより、マッキンゼーに行くか、不動産エージェントになるかというくらいのレベルにまでいかないと多分ダメだと思う。そうやって優秀な人達がやってみようか、面白いなと思える仕掛けですね。
巻口:私はもう一つ別の方向性の、不動産業界のレベルアップの方向性もあるかなと思っています。今、宅建の免許を持っている学生や主婦の人、不動業界をやめて宅建の免許を使っていない人がすごくいっぱいます。これはとても勿体無い。人工知能などによる業務のテクノロジー化が進むことによって、取引が効率化され、人間が全部やらなくても取引のプロセス化、つまり細分化が進んでいくビジネス形態ができれば、全国の未活用の労働リソースがもっと有効に活用できるのではないかと思うんです。それこそ主婦の方が、ちょっと小遣い稼ぎで、家の近くの物件調査を、不動産会社から依頼されて、報酬をもらうような。それが不動産業界の効率化につながり、主婦になって今までのビジネスのスキルが活用できなかったことによる機会損失の問題が解決すれば、より経済が活性化しGDPが上がっていくという方向性もあるのではないでしょうか。長嶋さんもおっしゃられた、業界の高度化ということと、逆にプロセスを分断して効率化するという二つの方向性によって、不動産業界の変革、両方の波が実現できるんじゃないかなと思います。
長嶋:そうですね。
巻口:今日は大変貴重な意見をありがとうございました。不動産業界の高度化のために、今後も官民への働きかけ是非お願い致します。
長嶋:ありがとうございました。
【長嶋 修】
広告代理店を経て、1994年(平成6年)ポラスグループ(中央住宅)入社。営業、企画、開発を経験後、1997年から営業支店長として幅広い不動産売買業務全般に携わる。
日々の不動産取引現場において『生活者にとって本当に安心できる不動産取引』『業界人が誇りをもてる仕事』『日本の不動産市場のあるべき姿』を模索するうちに、『第三者性を堅持した不動産のプロフェッショナル』が取引現場に必要であることを確信。
1999年、『人と不動産のより幸せな関係』を追求するために、業界初の個人向け不動産コンサルティング会社『不動産調査 さくら事務所(現 株式会社さくら事務所)』を設立する。
以降、様々な活動を通じて『“第三者性を堅持した不動産コンサルタント』第一人者としての地位を築く。
2005年12月、『人と不動産のより幸せな関係』を広めるため、同社代表を退き会長就任。マイホーム購入・不動産投資など、不動産購入ノウハウにとどまらず、業界・政策提言や社会問題全般にも言及するなど、精力的に活動している。
著書やマスコミ掲載やテレビ出演、セミナー・講演等実績多数。
近著『不動産投資成功の実践法則50』
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【巻口 成憲】
新聞配達専売員から社会人経験をスタートし、国内投資不動産デベロッパーに入社。財務経理全般の業務責任者を担当しつつ、自社基幹システムを構築(VB+Oracleでのスクラッチ開発、社内ネットワーク整備、自社HP作成運営)し、システム責任者を兼任。世界4大会計事務所系KPMGコンサルティング(現プライスウォーターハウスクーパース)に転職し、経営コンサルタントとして、多業種のシステム導入プロジェクトをはじめ、事業戦略策定や人事制度設計、経営管理に関する幅広いプロジェクトに参画。MBA取得後、国内監査法人系トーマツコンサルティング(現デロイトトーマツコンサルティング)に転職。上場のための経営計画策定やBSC導入等の経営管理に関する各種プロジェクトに参画。
2005年中古不動産事業を手がけるREISM株式会社設立に取締役CFOとして参画。リーマンショック後の不動産市場低迷期に、バックオフィス業務に加えフロント業務の統括責任者として専務取締役に就任。「顧客を育てる」という全く新しい観点によるリノベーション不動産投資ブランド事業を展開。年間待ち行列3000人を超すリノベーション投資不動産をプロデュースし、セミナー販売のみで売上高46億円の事業に成長させる。2014年さらなる業界改革を目指し、不動産情報化事業を手掛けるリーウェイズ株式会社を設立し、代表取締役CEOに就任。
近著『なぜ決断力のある人ほど不動産投資に失敗するのか』
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